人間の潜在能力は量り知れないもので、古くから言い伝えられるものに火事場の馬鹿力という言葉がある。緊急事態などに遭遇したときに、普段は使えないほどの大きな力を生み出すことができるという。
人間の運動機能は、そのほとんどが脳に支配されている随意運動で、体にとって負担が掛かり過ぎないように、脳が能力を調整していると考えられている。その割合は、最大の力の20%から80%と幅広く論じられているが、共通しているのは全ての能力を出し切っていないという点だ。
火事のように命に危険が迫るような状況になると、脳の制御から解き放たれ、最大限の力を出すことができる状況が生まれると考えられている。ただし、普段保護されている状態の筋肉や骨格に必要以上の負荷を掛けるので、それだけダメージも大きい。
人は極度に興奮したり、何かに集中したりしていると、痛みに対する感覚が限りなく少なくなることが知られている。要は「痛がっている場合じゃない」というときは痛くないのである。そして興奮や集中が切れたとき、激痛が襲ってくるように、脳が支配する体の機能はとても精密だ。火事場の馬鹿力が存在したとしても不思議ではないだろう。